かんらん石 olivine (苦土かんらん石 forsterite) [戻る
(Mg,Fe)2SiO4

通常の造岩鉱物としては原子比でMg>Feの苦土かんらん石が普通で,それは石英とは共生しない。一方,鉄に富む鉄かんらん石は石英と共生し,ペグマタイトや流紋岩にまれに見られる程度。


斜方晶系 
二軸性(+,−),2V=90°前後(Feが増えると2Vx=40°程度まで変化する) α=1.635〜1.827 β=1.651〜1.869 γ=1.670〜1.879 γ-α=0.035〜0.052(Feが増えると屈折率が高まる)


色・多色性/通常の造岩鉱物として見られる苦土かんらん石は無色で多色性はない。ペグマタイトや流紋岩に見られる鉄かんらん石は淡黄色で濃淡の弱い多色性が見られる。

形態/
他形粒状が多い。火山岩中のものは時に短柱状自形。

双晶/通常は単晶。まれに(0 1 2)などの双晶が存在し,消光状態で認められることがある。

へき開/通常はほとんど認められないが,弱いへき開が(0 1 0)に見られることがある。
消光角/火山岩中の短柱状のものは伸び方向に直消光。
伸長/火山岩中のものはC軸方向にやや柱状に伸びることがあり,C=Yなので伸長は正の場合も負の場合もある。



(010)の弱いへき開線が見られる,a軸方向から見た短柱状自形のかんらん石(中央やや右側の粗大なもの。なお,Olで示したものは全てかんらん石)
結晶の伸び方向(c軸)に平行な(010)の弱いへき開線が見られ,クロスニコルではそれに対し直消光している。玄武岩中の斑晶。


累帯構造/しばしばMg⇔Feなどの置換による累帯構造があるが光学的には確認しにくく,まれに安山岩や玄武岩中のものに干渉色の違いで認められる程度(干渉色は中心がMgに富み低めで,周囲がFeに富み高めの傾向がある)。


産状

・玄武岩やはんれい岩によく含まれる。中性岩の安山岩にもしばしば含まれ,それはややFeに富む(このものは周囲に頑火輝石の反応縁が生じている場合があり,これはかんらん石晶出後,ケイ酸分が多いマグマが混合し,かんらん石とケイ酸分が多いマグマとの反応生成物である)。火山岩中の斑晶は周囲や割れ目に沿ってFeが酸化し赤褐色化してイディングス石と呼ばれる状態のものがある。

・また,かんらん岩の主要構成鉱物で,それは地下深部での圧力により原子配列のすべりが起き,クロスニコルで弱い波動消光やキンクバンドがしばしば認められる。なお,アルカリ玄武岩中のかんらん石にもキンクバンドが見られることもあるが,それはマントル物質(かんらん岩のかんらん石粒子)が玄武岩マグマに取り込まれたものの場合が多い。

・ドロマイトスカルンには端成分の苦土かんらん石が方解石集合体中に産する。これは方解石中に分散した数10粒の結晶が同時消光する場合があり,苦土かんらん石の樹枝状形態の単一結晶の断面が,分散した粒に見えているものである。それと同じような消光状態を示す小藤石(Mg3(BO3)2)に似るが,小藤石は干渉色が1次の橙程度で低く光軸角も狭い(2Vz=20°程度)。



玄武岩中のかんらん石
Ol:かんらん石,Aug:普通輝石,Pl:斜長石
玄武岩中の典型的なかんらん石で小さめの粒状の斑晶をなす。平行ニコルでは無色だが,クロスニコルでは結晶方位の違いによる色とりどりの鮮やかな干渉色を示す(通常,輝石類よりも干渉色は高い)。なお,石基の斜長石は(0 1 0)面が発達して伸びた短冊状でNaに富むものと考えられ,その並びはマグマの流動方向を示す。





玄武岩中の累帯構造があるかんらん石
Ol:かんらん石
火山岩中のかんらん石の斑晶はしばしば周辺部がFe(鉄かんらん石成分)に富み,干渉色が高い傾向がある。画像のものは自形の斑晶で,周辺部が2次の青に達する高い干渉色を示しているのが分かる(平行ニコルではいずれも無色で累帯構造は分からない)。




かんらん石の周りにできた頑火輝石の反応縁(安山岩中)
Ol:かんらん石,Opx:頑火輝石,Pl:斜長石
安山岩中のかんらん石((Mg,Fe)2SiO4)はしばしば頑火輝石((Mg,Fe)SiO3)の反応縁(Opx1)に取り巻かれ,これはマグマの固結過程でケイ酸分(SiO2)に富むマグマが混合し,(Mg,Fe)2SiO4+SiO2→2(Mg,Fe)SiO3の反応でできた反応縁である。Opx2は反応縁ではない頑火輝石である。





玄武岩中のかんらん石
Ol:かんらん石,Aug:普通輝石,Pl:斜長石

地表付近で固まった火山岩中のかんらん石は,空気の酸素の供給を受け,2価のFeが一部3価となり,平行ニコルで褐色に見え,これをイディングス石と呼ぶことがある。その酸化した褐色部分はやや干渉色が低い。

造山帯(広域変成帯)中のかんらん岩中のかんらん石
Ol:かんらん石,Opx:頑火輝石,Cr-Sp:クロムスピネル
造山帯のかんらん岩(アルプス型かんらん岩)は圧砕作用を受け,その中のかんらん石はこのように細粒化していることが多い(クロスニコル)。一方,輝石類(透輝石や頑火輝石)はそれに比べ圧砕作用に耐え,比較的大粒のままで残留している。



肉眼で見た造山帯(広域変成帯)中のかんらん岩
隆起作用の際に圧砕作用を受けてマントルに存在していたときの等粒状組織は失われ,灰緑色緻密になっいる。



火山岩中に取り込まれたゼノリスとしてのかんらん岩中のかんらん石
Ol:かんらん石,Di:透輝石,En:頑火輝石,Cr:クロムスピネル

玄武岩マグマの上昇流に取り込まれたかんらん岩は,造山帯のかんらん岩に比べ,マントル存在時の等粒状組織が残っている。かんらん石は粗粒で,波動消光を示すものは少ないが,時に地下深部の圧力による結晶内の原子のすべりに起因するキンクバントが見られるものがある(クロスニコルで同一結晶内で直線的な区域で消光部が帯状にやや異なる部分。左上のOlで示した粒子)。かんらん石は平行ニコルでへき開が見られず,透明度が高く,クロスニコルで干渉色が高い(干渉色は3次に達する)。他方,頑火輝石や透輝石は平行ニコルでへき開線が見え,クロスニコルではやや干渉色が低い(頑火輝石は直消光で干渉色は1次の灰〜黄色程度。透輝石は約40°までの斜消光で干渉色は1〜2次程度)。



肉眼で見た火山岩中に取り込まれたゼノリスとしてのかんらん岩
黄緑色粒状のかんらん石,暗色粒状の頑火輝石・透輝石・クロムスピネルが集合し,上部マントルに存在していたときの等粒状組織が残っている。





ドロマイトスカルン(苦灰岩)中のかんらん石
Ol:かんらん石,Cal:方解石

ドロマイト(苦灰岩)が花こう岩などのマグマで接触変成を受けて生じたスカルン(ドロマイトスカルン)にも,かんらん石が見られ,それはFeに乏しく,苦土かんらん石の端成分に近いものである。それは,方解石(もとのドロマイトは接触変成時にそのMgが,かんらん石・金雲母・スピネルなどになるため,Mgが抜けて方解石に変わることが多い)中に,一見,粒状で散在する。しかし,上画像のように一見,数10粒の離ればなれのかんらん石がほぼ同時に消光するので,互いの結晶方位はほぼ同じであり,これは1つのかんらん石の樹枝状結晶の断面が,離ればなれの数10粒の粒状集合体に見えているものと考えられる。
このかんらん石と同様に,離ればなれに見える粒が同時に消光するドロマイトスカルンの鉱物としては,Mgのホウ酸塩鉱物である小藤石(Mg3(BO3)2)がある。小藤石はかんらん石よりも干渉色が低く(1次の橙まで),光軸角は2Vz=20°程度なので区別できる(小藤石も1つの樹枝状結晶の断面が,離ればなれの数10粒の粒状集合体に見えているものであろう)。






隕石(コンドライト)中のかんらん石(中央のコンドリュールの構成物)
かんらん石はコンドライト中では輝石類やCaに富む斜長石などとともに豊富に見られ,コンドリュールの構成物質として他形〜自形粒状の集合体をなしていることも多く,それらの互いの結晶方位はまちまちで,このように粒子ごとの干渉色は大きく異なっている。なお,コンドリュールの構成物質としては輝石類も多いが,それは干渉色がやや低く,柱状〜針状に伸びていることが多く,それらは平行〜放射状集合体をなしていることも多い。




肉眼で見たコンドライトの切断面(幅約3cm)
丸っこい1〜2mm程度のコンドリュールがあちこちに見られる。主に輝石類からなるコンドリュールと,主にかんらん石からなるコンドリュールがある。